『鉄男』でのセンセーショナルな劇場デビュー以後、世界中に熱狂的ファンを持ち、多くのクリエイターに影響を与えてきた塚本晋也。戦場の極限状況で変貌する人間を描いた『野火』、太平の世が揺らぎ始めた幕末を舞台に生と暴力の本質に迫った『斬、』、その流れを汲んだ本作の舞台は『野火』の直後、終戦後の闇市。戦争で奪われたものと、絶望と闇を抱えたまま混沌の中で生きる人々を、映画はしたたかに描き出す。
主演は、NHK連続テレビ小説「ブギウギ」のヒロインに抜擢され、今最も活躍が期待されている俳優、趣里。孤独と喪失を纏いながらも戦争孤児との関係にほのかな光を見出す様を繊細かつ大胆に演じ、戦争に翻弄されたひとりの女を見事に表現した。片腕が動かない謎の男を演じるのは、映像、舞台、ダンスとジャンルにとらわれない表現者である森山未來。飄々としながらも奥底に蠢く怒りや悲しみを、唯一無二の存在感で示している。復員した若い兵士役にPFFグランプリ受賞作品『J005311』の監督でもある河野宏紀、戦争孤児を演じた塚尾桜雅は、一度見たら忘れられないその瞳で物語をより深く豊かに彩った。
人間の中に潜む暴力、分かち難く絡む死と生を描いてきた塚本晋也が今を生きる全ての者に問いかける祈りの物語。
火と、その揺れに合わせて姿を変える影。
その影の中に生きる人々を見つめ、耳をすます。
女は、 半焼けになった小さな居酒屋で1人暮らしている。体を売ることを斡旋され、戦争の絶望から抗うこともできずにその日を過ごしていた。空襲で家族をなくした子供がいる。 闇市で食べ物を盗んで暮らしていたが、ある日盗みに入った居酒屋の女を目にしてそこに入り浸るようになり…。
監督プロフィール
1960年1月1日、東京・渋谷生まれ。14歳で初めて8ミリカメラを手にする。87年『電柱小僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。89年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。以降、国際映画祭の常連となり、その作品は世界の各地で配給される。世界三大映画祭のヴェネチア国際映画祭との縁が深く、『六月の蛇』(02)はコントロコレンテ部門(のちのオリゾンティ部門)で審査員特別大賞、『KOTOKO』(11)はオリゾンティ部門で最高賞のオリゾンティ賞を受賞。『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『野火』(14)、『斬、』(18)でコンペティション部門出品。本作『ほかげ』はオリゾンティ・コンペティション部門へ出品された。また、北野武監督作『HANA-BI』がグランプリを受賞した97年にメインコンペティション部門、05年はオリゾンティ部門、19年にはメインコンペティション部門と3度にわたって審査員を務めている。
製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は国内、海外で数多くの賞を受賞、長年に渡り自主制作でオリジナリティ溢れる作品を発表し続ける功績を認められ、2019年にはドイツで開催される世界最大の日本映画祭「第19回ニッポン・コネクション」にてニッポン名誉賞、ニューヨークで開催される北米最大の日本映画祭「第13回 Japan Cuts~ジャパン・カッツ!」にて、第8回CUT AVOVE(カット・アバブ)賞を受賞した。
俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演。2002年には『とらばいゆ』(01/大谷健太郎監督)、『クロエ』(01/利重剛監督)、『溺れる人』(00/一尾直樹監督)、『殺し屋1』(01/三池崇史監督)で毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。同コンクールでは15年に『野火』で監督賞・男優主演賞をW受賞、19年に『斬、』で男優助演賞を受賞している。その他出演作に『沈黙ーサイレンスー』(16/マーティン・スコセッシ監督)、『シン・仮面ライダー』(23/庵野秀明監督)。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(19)などドラマにも多数出演。
- 1987年 『電柱小僧の冒険』
- 1989年 『鉄男』
- 1990年 『ヒルコ 妖怪ハンター』
- 1992年 『鉄男Ⅱ BODY HAMMER』
- 1995年 『東京フィスト』
- 1998年 『バレット・バレエ』
- 1999年 『双生児』
- 2002年 『六月の蛇』
- 2003年 「とかげ」※TVドラマ
- 2004年 『ヴィタール』
- 2005年 『玉虫~female~』※短編
- 2005年 『ヘイズ』※短編
- 2006年 『悪夢探偵』
- 2008年 『悪夢探偵2』
- 2009年 『鉄男 THE BULLET MAN』
- 2010年 「妖しき文豪怪談 葉桜と魔笛」※TVドラマ
- 2011年 『KOTOKO』
- 2014年 『野火』
- 2018年 『斬、』