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第80回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品しておりました『ほかげ』。現地時間の9月5日にフォトコール、レッドカーペット、公式上映、Q&Aが行われ、塚本晋也監督、森山未來さん、塚尾桜雅さんが参加しました。

フォトコール(会場:Press Conference Room of the Palasso del Casino-3F)

 

レッドカーペット(会場:Sala Darsena)

公式上映(会場:Sala Darsena)

公式上映では本編の終盤、エンドロールに差し掛かるやいなや、早くも場内からは惜しみない拍手と歓声が巻き起こり、1400席超の劇場を埋め尽くした観客たちから、約8 分間のスタンディングオベーション!熱気に包まれた会場と超満員の観客からは同作への評価の高さがうかがえました。上映後には、観客とのQ&A の場が設けられ、塚本監督は「まずは、ありがとうございました!grazie!」と感無量の表情をのぞかせました。作品について尋ねられると、「今回の『ほかげ』は、実際に戦争に行った人だけではなく、戦争のせいで恐ろしい目に遭った一般の人たちの目を通した物語です。僕自身は歳を取ったので召集されることはないでしょうが、もし今後、戦争に行くとなったら若い人たちです。そういったことが起きないようにという願いを込めて制作しました」と思いの丈を
伝えました。森山さんは、「塚本監督の映画はどれも力強い作品だと感銘を受けていたので、今回、作品に参加させていただけるということを光栄に思っています」と初の塚本作品、そして、本作でヴェネチア国際映画祭に参加できたことへの感謝の意を表し、大きな拍手を浴びました。また、初めての海外映画祭への参加となった塚尾さんは「「Mi chiamo OGA. Ho 8 anni. Piacere!(僕の名前は桜雅です。8 歳です。はじめまして!)」と、一生懸命覚えたというイタリア語での挨拶を披露し、会場を沸かせる一幕も。上映を終え、塚本監督は「実は、『ほかげ』は僕自身がとっても好きな映画にできたんです。また、今回、このような大きなスクリーンで上映できて嬉しかったですし、お客さまが皆、息を詰め、集中して観てくださっていて、観終わった後に、祈りの思いが伝わったという感触を非常に強く感じられました。とても嬉しいです」と喜びの言葉を述べました。そして、森山さんは、「ヨーロッパの映画祭に参加したのは僕自身初めて。ヴェネチア国際映画祭という場所にこの作品で来られて、本当に光栄です。監督の込めた祈りやエネルギーがこれからどういう風に観客に届いていくのだろうと楽しみでもあります」と語り、塚尾さんは「自分が出ている映画を多くの方が観てくれていると思うと、すごく嬉しい気持ちでいっぱいです!」と一生懸命に伝えてくれました。
ヴェネチア国際映画祭には9度目の参加の塚本監督ですが、今回、初めて観客からのQ&Aの場に立ち会い、「お客さまが的確で実感のこもった質問をしてくれたので、想像以上に大事なことを伝えられた気がします。今の世の中の不安とか、戦争に近付いてきているということを伝えられたし、皆さんが真剣に聞いてくださったので、とても良い時間になりました」と振り返りました。

Q&A(会場:Sala Darsena)※一部抜粋・再構成

Q:『野火』『斬、』に連なる作品ですね。戦後の話ですが、現在の状況が深く描かれているように思います。

塚本監督:『野火』では、日本や世界全体がどこかきな臭い感じになっている気がして、どうも戦争に近づいているんじゃないかという恐ろしいシチュエーションを感じて作りました。戦争に行って、兵隊さんがいかに恐ろしい目に遭うのかを描いた作品です。そして、『斬、』では、時代は少し遡って江戸時代になりますが、若い人が人を殺してしまうまでの葛藤を描きました。今回の『ほかげ』は、実際に戦争に行った人だけではなく、戦争のせいで恐ろしい目に遭った一般の人たちの目を通した物語です。僕自身は歳を取ったので召集されることはないでしょうが、もし今後、戦争に行くとなったら若い人たちです。そういったことが起きないようにという願いを込めて制作しました。

Q:こういう作品を演じるには、俳優としてもパワーがいると思いますが、いかがですか?

森山さん:塚本監督の映画はどれも力強い作品だと感銘を受けていたので、今回、作品に参加させていただけるということを光栄に思っています。戦後の混乱の中で少年がサバイブしていくにあたって、いろんな人々に出逢っていく。その中の一人を演じさせていただくにあたって、塚本監督といろんな話をしました。どういう出自で、どういう戦争経験があって、こうゆう生き方を選び、少年と一緒に旅をすることになったのか。映画の中ではどういう風に生きてきたのかを殊更に説明する描写というのはなかったかもしれませんが、そこを掘り下げていくにあたって、様々な文献を持ってきてくれたり、こうなんじゃないか?と、多角的な視点で捉えようとされている執念というかエネルギーの強さみたいなものにずっと圧倒されていました。『ほかげ』という映画、あるいは塚本監督のこれまでの映画のパワフルさに繋がっているんじゃないかと思います。

Q:いつもの監督の作品は登場人物の感情をセンチメンタルでない客観的なアプローチで見せているように思いますが、今回はそのまま裸で見せています。どのようなアプローチをしたのでしょうか?

塚本監督:今までの自分の映画とだいぶ違います。自分自身がこれから先のことを考えた時に非常にいろいろと心配になったんです。こういう小さい子供が今後どうなっていくんだろうと思ったら、非常にストレートにシンプルな気持ちになって、自然とこのような作品になりました。

Q:日本も世界も右傾化していると思います。それをどうにかしたくて作品を作っているのですか?

最初に『野火』を作ろうと思った時は、原作があまりに素晴らしい小説なので、普遍的な価値があるだろうと思っていましたが、最終的に作ろうと思ったのは、もうあからさまな感じで日本が戦争に傾いていっていると感じたからです。戦争の悲惨さや怖さを体の痛みで知っている人たちが亡くなっていくにつれて、戦争のほうに近付いて行ってしまっていると気づいたのが10年前。段々良くなっているのかというとそうではなくて、秘かに、水面下にと言うには露骨でもあるのですが、皆がぼーっとしている間に着実に(戦争の方に)進んでいると思っています。

Q:『鉄男』『東京フィスト』『バレット・バレエ』などで暴力を描いてきましたが、最近は暴力の描き方がかわりましたね。

塚本監督:昔は実際に生きてるうちには起こらない、つまりファンタジーとしての暴力を描いていましたが、『野火』からは暴力の世界が実際に近付いてきているのを肌で感じるようになりましたので、ファンタジーではなく、そんなことが本当におきたら嫌だ、近づきたくない、いかにうんざりするほど恐ろしいものか、というように暴力を描いています。