映画「ほかげ」公式サイト | 外国特派員協会記者会見レポート

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外国特派員協会記者会見レポート

11月9日(木)、外国特派員協会にて『ほかげ』の試写会が行なわれ、上映後の記者会見に、塚本晋也監督と趣里さんが演じる居酒屋の女のもとにやって来る復員兵役の河野宏紀さんが登壇しました。

戦後の闇市を舞台にした理由について、塚本監督は「当初は、闇市を扱った大きなスケールの映画の構想があったのですが、規模が大きすぎたので、逆に小さな話を作ることにしました。ただ一回、大きな構想で考えたストーリーでこの映画に映っていない部分、戦争孤児がどうして(趣里さん演じる)女の家に来たのか、テキ屋の男とどこで出会ったのか等、そういった背景を感じさせることができるように専心し、集中しました。そのためには俳優の方々の演技が大事だったので、いかに皆さんがやりやすいようにするかを考えました」と明かしました。

また、本作では時代背景の詳細が描かれていない点を問われた塚本監督は、「非常に大事な質問だと思いました。普通でしたら、映画の冒頭に、1945年の終戦を迎えた日本の闇市が舞台です等と字幕で入れるなり、登場人物にもう少し説明させたりしますよね。でも、時代を限定することで、日本の観客の方が“これは過去の話ね”という意識で観てしまうのを避けたいと思ったんです。また、海外の方に対しては尚のこと不親切かと思いましたが、説明で理解してもらうのではなく、感じていただくことが大事だと考えました。抽象性がある方がむしろ自分たちの国で起こっていることに置き換えて捉えてもらえるのではないかという期待も込め、敢えてあまり説明をしないという選択をしました」と意図を説明しました。また、日本の戦争映画は被害者側の視点で描かれることが多いという意見を受け、「戦争の恐ろしさは、加害にもあるということを描かないといけないという使命を感じています。『野火』では兵隊さんがいかに戦場で恐ろしい目に遭うかを描きましたが、戦争でもたらされる被害も加害も、同じぐらい恐ろしいものとして、均等に描かないといけないと思います」と、塚本監督は自身の考えを語りました。

 

第44回ぴあフィルムフェスティバル「PFFアワード2022」にて満場一致でグランプリに輝いたロードムービー『J005311』で、監督・脚本・製作・出演等を自身で担った河野さんに対し、塚本監督との共通点を感じるという観客から、何か影響を受けた点はあるか?と質問が及ぶと、河野は「自分が(『J005311』を)撮った時はまだ塚本監督にはお会いしていませんでした。塚本監督の作品は以前から拝見していましたが、自身の映画作りに関して影響を受けたということはないです」と気恥ずかしそうに話すも、「塚本監督が全部自分でやられているというのは知っていましたし、僕はチャップリンが好きなので、塚本監督の作品はチャップリンのような映画スタイルでかっこいいなと思っていました」と打ち明けました。

 戦争孤児を演じた塚尾桜雅さんへの賞賛の声が多い本作。撮影当時、小学一年生だった塚尾さんとの共演を振り返って、河野さんは「撮影外のところでは、わんぱくではっちゃけている子でした。でも、撮影が始まると、彼の雰囲気、特に目が変わるんです。お芝居に嘘がない。すごい役者だなというのが第一印象です。趣里さんを含めお二方と共演できたことを誇りに思っています」と尊敬の念を述べました。塚本監督は、「劇中では大人に投げ飛ばされたりしていますが、プロのスタントマンの方に指導にも入ってもらって、非常に安全第一な撮影現場でした。塚尾くんは元気に何度も練習をやってくれました」とフォローを交えて答え、「フレーム外はやんちゃでふざけたことばりしているのに、撮影現場に責任を持って居るという自覚を彼は持っていました。大人の役者と変わらず、話し合ってシーンを作っていきました。撮影に入るとその場の雰囲気を察知して表情が変わるんです。すごい役者さんです」と絶賛しました。

 

故・石川忠さんの音楽が使われている経緯を尋ねられると、「『斬、』の製作段階では、まだご存命で、今回も一緒にやろうねと言っていたのですが、撮影が終わって頼もうとした時に亡くなられてしまって。でも、それまでに石川さんが僕のために作ってくれていた曲と石川さんの奥さまから未発表曲をいただいたんです。それで、天国の石川さんと相談しながら、切ったり貼り付けたりして編集していったんです」と振り返り、「今作でも、どうしようか、誰に頼もうかなと言いながら、手がどんどん石川さんの曲にあてて編集していくんですよ。あくまでもこの作品の為に作った曲だよねと思ってもらえるように、今回も天国の石川さんと相談しながら作っていきましたと楽曲についての秘話を明かしました。

最後に観客にどういう風に受け取って欲しいかと問われると、河野は「この作品はあくまで映画ですが、単に映画として消費してはいけないような気がしています。自分も含め、同世代やもっと若い世代の方々に、常に他人事ではないという意識を持って欲しい。僕はこの作品に参加させていただいて、意識を持って生きていかなければならないと、より一層強く感じました」と真摯な考えを述べました。また、塚本監督は「世界のいろんなところで非常に恐ろしいことが起こっていて、これから先の未来が本当に心配です。『ほかげ』には、若い世代の未来が楽しくて良い世の中にあるようにという祈りを込めました。戦場に行くのは権力者ではなく民衆。民衆目線で、戦争が始まるとどうなるのかを切実に考えねばならない、という願いが伝わればいいなと思っています」と強い想いを伝え、温かな雰囲気の中で記者会見は終了しました。